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仙台地方裁判所 昭和41年(ワ)292号 判決 1968年2月07日

原告 斎藤和子

<ほか四名>

右原告五名訴訟代理人弁護士 渡辺大司

右訴訟復代理人弁護士 渡部修

被告 仙都タクシー株式会社

右代表者代表取締役 伊藤文太郎

右訴訟代理人弁護士 高橋万五郎

花淵信次

被告 千葉広志

右訴訟代理人弁護士 遣水祐四郎

主文

被告らは各自原告斎藤和子に対し金一、四一八、〇〇〇円、原告斎藤誠、斎藤久夫、斎藤しげ子に対し各金六九六、〇〇〇円、原告斎藤誠三に対し金六九二、〇〇〇円、および右各金員に対する昭和四一年五月二一日から完済に至るまで年五分の金員を支払え。

原告らのその余の請求を棄却する。

訴訟費用は五分し、その一を原告らの負担とし、その余を被告らの負担とする。

この判決は原告勝訴の部分に限り仮りに執行することができる。

事実

≪省略≫

理由

一、(事故の発生)

請求原因第一項は当事者間に争いがない。

二、(被告会社の責任――被告会社に対する関係での判断)

被告会社が、本件事故当時本件乗用車を所有していたこと、被告千葉が当時被告会社の従業員であったことは当事者間に争いがない。

≪証拠省略≫を総合すると、本件乗用車は被告会社から被告会社の従業員で組織している「仙都タクシー親睦会」に対し、昭和三九年ごろから引続き無償で貸与されていたものであることが認められる。右認定に反する証拠はない。

被告会社は、本件乗用車に関しその運行支配と運行利益を有しない旨抗争するので判断するに、≪証拠省略≫を総合すると、

(イ)  前記親睦会は、昭和三八年五月一日被告会社従業員(但し役職にある者は除く。)全員によって、従業員間の親睦と相互援助を目的として組織されたこと(従来被告会社には、労働組合があったが、親睦会はそれに代るものとしての意味合があったと推認できる。)。

(ロ)  右親睦会はいわゆる規約を定め、年一回の総会を開き、会長、副会長、会計等の役員を置き、会員から月々会費を徴収して、一応被告会社とは独立して運営されていたこと。

(ハ)  その後親睦会会員の要望により被告会社から、同会に対し自家用ナンバーの車両が貸与されるに至り、被告会社従業員のうちで自動車運転免許証を有する者により、いわゆる「ドライブクラブ」を結成し、その責任者に当時の親睦会会長でもあった佐藤清が就いたこと(その理由については後記(ヘ)に記載)。

(ニ)  ドライブクラブは親睦会とは一応別組織のものであって、経費関係も別々に運営されていたこと(ドライブクラブは右車両使用の有資格者をわくづける意味合のものとして組織されたものと推認できる。)。

(ホ)  右車両は、ドライブクラブ員のリクリエーションに利用されていたもので、使用しようとする者は、あらかじめ責任者であった佐藤清に申込みをなし同人が申込者の順番を整理し、使用料の徴収の係をしていたこと。

(ヘ)  右使用料は、使用時間と距離との二本立てで定められており(基本料金として金一〇〇円、時間単位で金五〇円、一〇キロメートル単位で金五〇円というふうに定められていた。)、徴収した金員は、主としてガソリン代に充当されていたこと。

(ト)  使用料の徴収方法は責任者である佐藤清が伝票を発行して、使用した本人に時間と距離(キロ数)を記入させ、それに基づいて、被告会社の会計の方で、本人の給料から天引していたもので、佐藤清は現実に金銭の取扱いをしていたわけではないこと。そして徴収した金員は通帳形式にして親睦会の会計役員が保管していたこと。さらに佐藤清が右のように責任者に就いたのは親睦会会長でもあり、かつ、たまたま同人が被告会社従業員のうちで比較的会社内にいることが多く、時間的余裕があったという理由からであったこと。

(チ)  被告会社は、右車両を必要に応じ親睦会から借りて使用したことがありその場合被告会社は親睦会会長かつドライブクラブの責任者であった佐藤清に対し、一応承諾を求めていたこと、また被告会社が使用した場合は、使用料に充てるものとして使用した分のガソリンを補充して車両を返還していたこと(従って被告会社が使用する場合は使用料という名目での支払いはなかった)。

(リ)  本件乗用車も以上の如くして被告会社から親睦会に対し貸与されていた車両のうちの一台で(本件事故当時貸与車両は合計二台であった。)、その税金の支払、車体検査等は被告会社においてなし、修理も被告会社の工場で被告会社の費用(ただし事故による場合を除く)でなされていたこと、そして、車庫は被告会社のものを使用し、被告会社の他の営業車と同じ車庫に入れられていたこと。

(ヌ)  被告会社は、何時でも貸与車両を親睦会に対して返還するよう求め得る関係にあったこと。

以上の事実が認められ(る。)≪証拠判断省略≫

以上認定したところによれば、被告会社が親睦会に対し、本件乗用車の貸与をなしてきたのは親睦会がそれ以前被告会社に存在した労働組合に代るものとしての意味合で結成されたことから、同会員の要望を入れてのうえのことであり、結局従業員(親睦会員)の福利更生設備の一つとしての意味合のものというべくドライブクラブなるものも貸与車両を使用するにつき運転免許を有する者だけを対象として、単に利用資格がある者というわくづけをする意味合をもつものにすぎないものというべく、また右貸与車両の管理も親睦会会長の管理といい得る事実が前記認定の程度のものといえるかぎり、被告会社が、その管理を一切失っているとはいい得ないと考えるのが前記認定の各事実に照し相当というべきであり、そうとすれば、被告会社の本件乗用車に関し運行支配も運行利益も有しないとの主張は理由がないものというべきである。

よって、被告会社はその所有にかかる本件乗用車を自己のため運行の用に供してきたものであるというべく本件事故につき自賠法第三条の責任がある。

三、(被告千葉の責任――被告千葉に対する関係での判断)

≪証拠省略≫によると、被告千葉は本件事故現場には外灯の設備もないため暗くそのうえ本件乗用車の前照灯を下向きにしていたためその照射距離が短かく前方の見透しが悪く、そのうえ運転前に飲んだビールの酔い(事故当時呼気一リットルにつき〇・五〇ミリグラム程度であった。)の影響で、前方注視力が鈍麻していたにもかかわらず漫然と時速約五〇キロメートルの速度で運転を継続し、ために進路前方の道路左側を横に並んでそれぞれ自転車に乗り同一方向に進行中の誠一および訴外菅原儀郎の発見が遅れ、同人らの後方約一九メートルに迫って初めてこれに気づき、あわててブレーキをふみ、ハンドルを右に切ったが間に合わず、誠一運転の自転車後部に自車の右前部を追突させ、同車をはね飛ばして同人を路上に転倒させ、本件事故を発生させたことが認められる。右認定に反する証拠はない。

従って被告千葉には運転者として事故を未然に防止すべく当然なすべき速度を減じ前方を注視すべき義務を怠った過失があるといわなくてはならない。

四、(損害)

(一)  誠一の失った得べかりし利益

誠一が事故当時満三九才であったこと、平均余命が三二、八六年であり、同人の就労可能年数が一六年であること、同人が農業に従事し、そのかたわら日雇に従事していたことは当事者間に争いがない。

≪証拠省略≫を総合すれば誠一は健康にもめぐまれ、家業である農業に従事し水田二町歩を自作して年間金三一五、六七五円の純収益を得ていたこと、他の家族は農業に従事せず従って右収益は専ら誠一の稼働によるものであること、さらに誠一は毎年一一月末ごろから農閑期を利用して翌年三月末ごろまで延四ヶ月間古川市にある離穀商等へ日雇に出て、一日平均少くとも金一、二〇〇円の収入を得ていたこと、右日雇には月平均少くとも二〇日間は出ていたことが認められる。従って同人の日雇による収入は月平均金二〇、〇〇〇円延四ヶ月間合計金八〇、〇〇〇円を下らなかったと推認できる。

ところで、原告和子が誠一の妻、原告誠、久夫、しげ子が誠一の子、原告誠三が誠一の弟であることは当事者間に争いがなく、≪証拠省略≫を総合すると誠一死亡当時原告誠は中学校二年生、原告久夫は小学校六年生、原告しげ子は小学校一年生であったこと、原告誠三は先天性白内障で両眼失明し智能も低いため何らの収入の道がなく、専ら誠一の扶養を受け、同人の家族と同居して生活していたこと、誠一は長男として亡父の財産であった田を単独で相続し農家の後を継いだ関係から、原告誠三の扶養も亡父からそのまま引継ぎ、誠一の弟妹は亡父から財産を相続せず、それぞれ就職して独立し、原告誠三を扶養する関係になかったこと、従って原告らは誠一の家族として生計を一にしていたのであるが、その生活費の合計は一ヶ月平均金三五、〇〇〇円であったことが認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。

右認定事実によれば、誠一の生活費はその世帯主である地位を考慮しても原告ら主張の月平均金六、六〇〇円(年平均金七九、二〇〇円)を越えるものではないと認めるのを相当とする。また原告誠三の生活費は金五、〇〇〇円と認めるのを相当とする。

そうすると、誠一は、毎月自己の生活費金六、六〇〇円のほか原告誠三の生活費金五、〇〇〇円を扶養料として負担し、これを支出していたのであるから、誠一の純収入額を算定するには同人の前記収入額から、右の自己の生活費と原告誠三の生活費を控除すべく、右により誠一の年当りの純収入を計算すると金二五六、四七五円となる。

そうすると、誠一は本件事故後就労可能年数の一六年間に亘って毎年度右金額の得べかりし利益を失ったものというべく、ホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息(原告らは純収入の一、〇〇〇円未満を切り捨てて、かつ単利年金現価計算方式による旨主張するのでこれによることとする。)を控除して事故当時におけるその一時払額を求めると金二、九五八、七九五円(円未満切捨てる。算式二五六、四七五円×一一、五三六三九〇七九)となる。

(二)  誠一の慰藉料

前記認定の誠一の蒙った傷害の部位、程度、死亡までの経過、同人の年齢、職業、収入、家族関係および本件事故の態様等を考慮すると、本件事故により同人が蒙った精神的、肉体的苦痛を慰謝するものとして金八〇〇、〇〇〇円が相当である。

(三)  過失相殺について

≪証拠省略≫を総合すると、誠一は菅原儀郎とともにそれぞれ自転車に乗り道路左側を横に並んで(誠一は中央寄りに)進行していたこと、本件事故現場は幅員六メートル、アスファルト舗装の直線道路でセンターラインは存するが、街灯の設備がなく暗がりであったこと、車歩道の区分がないこと、衝突地点は道路進行方向左側路肩より約二、七メートル附近であったこと、誠一は本件事故の少し前日本酒約一合を飲んだが態度は通常で、身体がふらつき自転車の安全運転に支障を生ずる状態にはなかったことを認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

また被告らは誠一がよろめきながらセンターライン寄りにハンドルを切ってきたと主張するけれども、これを認めるに足る証拠はない。

よって右認定した事実によれば誠一は本件乗用車が後方からやってきた際その気配を察し、直ちに併進するのを止めその進路を譲るべきであったと一応いうべきである。しかしながら前記認定した事実、前記一の争いない事実および前記三の認定した事実を総合すると、誠一は被告千葉の運転する本件乗用車が後方から進行して来る気配を察し、直ちに併進するのを止め、その進路を譲る時間的余裕もないまま追突されたものと認めるのが相当であるから、被告千葉の過失の重大さに対して誠一の過失はその割合において、きわめて少く過失相殺すべきものとして斟酌するには相当でないというべきである。

(四)  原告和子、誠、久夫、しげ子の相続

原告和子が誠一の妻、原告誠、久夫、しげ子が子であることは当事者間に争いがなく、誠一に他に子があったことは主張立証がない。

よって右原告らは相続により前記(一)(二)の合計額をそれぞれ相続分に応じて承継するところ、原告らは一〇〇〇円未満を切り捨てることは自認するので結局合計額金三、七五八、〇〇〇円のうち原告和子はその三分の一に相当する金一、二五二、六六六円の、他の三名の原告らはそれぞれその九分の二に相当する金八三五、一一一円の損害賠償請求権を取得したものというべきである。

(五)  原告和子の財産的損害

原告和子が古川市立病院に対し、誠一の本件事故による治療費金三三、七八八円を支払ったことは、≪証拠省略≫により認められる。また≪証拠省略≫によると原告和子は誠一の葬式費用として金三五、五〇〇円の支出をしたことが認められる。

ところで、被告会社は右治療費金三三、七八八円の弁済をなした旨抗争するが右主張に添う事実を認められる証拠はないから採用できない。

また被告千葉が、治療費として金一一、〇〇〇円、葬式費用として金二〇、〇〇〇円の弁済をなしたことは当事者間に争いがない。しかし、右治療費金一一、〇〇〇円は原告和子の支払った分とは別のもので、同原告の請求する右金額は同原告が直接支払った分であるとの同原告の主張に対し、被告千葉はこれを争わないのでこれを自白したものとみなす。

よって、原告和子の財産的損害は結局治療費金三三、七八八円葬式費用金一五、五〇〇円合計金四九、二八八円と認めるのが相当である。

(六)  原告和子、誠、久夫、しげ子の慰謝料

原告和子本人尋問の結果によれば、右原告らは誠一を一家の柱とし平穏な生活を営んでいたのであるが誠一の不慮の死に遭遇して悲嘆にくれ著しい精神的苦痛を蒙ったことが認められるから右苦痛を慰謝するものとして原告和子について金三〇〇、〇〇〇円その余の原告ら三名についてはそれぞれ金一五〇、〇〇〇円が相当である。

(七)  原告誠三の損害

原告誠三は前記(一)で認定の事情で誠一の扶養を受けていたのであるから、誠一が死亡することがなければ引続き毎月金五、〇〇〇円、年間金六〇、〇〇〇円の扶養を受けることができたものというべく、またその損害は本件事故と相当因果関係があるというべきである。そして、右扶養は当事者間に争いのない誠一の就労可能年数である一六年間は少くとも継続したものと思料するのが相当である。そうすると原告誠三は本件事故後一六年間に亘って毎年度右金額の扶養料を失ったものというべくこれをホフマン式計算法により年五分の中間利息(法定利率による単利年金現価計算法による)を控除すると金六九二、一八三円(算式六〇、〇〇〇円×一一、五三六三九〇七九)となり、これが原告誠三の侵害された利益を事故当時における一時払額に換算したものである。

(八)  弁護士費用

原告らは、被告らに対し前記損害賠償請求権を有するというべきところ、被告らがこれを任意に弁済しないことは≪証拠省略≫により明らかであり、原告和子が仙台弁護士会所属弁護士渡辺大司に対し、訴訟の提起と追行とを委任し、同弁護士に、手数料として金一〇〇、〇〇〇円を支払い、かつ報酬(謝金を含む)として金一五〇、〇〇〇円を支払う約束をしたことは被告会社との関係では争いがなく、被告千葉との関係では原告和子本人尋問の結果によりこれを認めることができる。しかして本件事案の内容に鑑み原告和子が右弁護士に対し負担した弁護士費用合計金二五〇、〇〇〇円は被告らに賠償させるのが相当である。

(九)  結論

よって原告和子は自己の財産的損害として前記(五)の金四九、二八八円、同(八)の金二五〇、〇〇〇円、慰謝料として金三〇〇、〇〇〇円、相続により承継した金一、二五二、六六六円の合計金一、八五一、九五四円の原告誠、久夫、しげ子はそれぞれ慰謝料として金一五〇、〇〇〇円、相続により承継した金八三五、一一一円の合計金九八五、一一一円の原告誠三は前記(七)の金六九二、一八三円の各損害賠償請求権を有するところ、原告和子、誠、久夫、しげ子は自賠法による保険金一、〇〇〇、〇〇〇円を受領し、かつ被告千葉より本訴提起後に金三〇〇、〇〇〇円の弁済を受けたことは同原告らの自認するところであるからこれらを各々の相続分に応じ右原告らの請求額に充当する。

よって、原告和子は金一、四一八、〇〇〇円、他の三名の原告らはそれぞれ金六九六、〇〇〇円、原告誠三は金六九二、〇〇〇円(いずれも一〇〇〇円未満を切り捨てることは原告らの自認するところである。)および被告らに対する本訴状送達の日の後であること記録上明らかな昭和四一年五月二一日以降完済に至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求めうるから、右の限度で原告らの請求を認容し、その余は失当であるから棄却し、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八九条第九三条第一項、第九二条本文を、仮執行の宣言につき同法第一九六条第一項を各適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石井義彦 裁判官 千葉庸子 小川克介)

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